注)高知県レッドデータブック植物編2012年では、
絶滅危惧ⅠB類(EN)に指定されています。
昨年春に四国で初めて明確な自生地の発見に立ち会いました。
その直後、高知県立牧野植物園の調査の際に十数本確認できました。
地元の新聞にも掲載され、近隣の人も新たに1本見つけてくれました。
昨夏にスミナガシの食草のヤマビワを採りに行った際に、家内が樹径が茶碗大のハナガシの木を見つけました。
その周辺には杉の植林の中に15~20本もあります。
春に見付けた場所から直線で600m程離れた神社に続く、林道脇の民有林内です。
更にその神社の周辺を数日間探すと、胸高樹周160㎝を筆頭に140㎝が2本、茶碗~丼大以下の若木が多数見つかりました。
その数は100本前後です。
中には育成環境としては非常に厳しいと思われる岩尾根でも見つけました。
そこの樹木は、曲がりくねって伸び、葉は黄褐色の斑点があり、葉焼けしている様でした。
また、全縁の樹木も散見できます。
前置きはこの位にして・・・
台風10号は18日の明け方までそれなりに荒れていましたが、日中は徐々に静かになりました。
市道には杉やネムノキの生枝がいっぱい落ちています。
翌日19日ハナガガシの様子を見に、軽トラで出かけました。
林道も同じく沢山の倒木や枝が道路を塞いでいます。
止む無く軽トラを停めて、徒歩で林道上の落下物を除けながら行くと、見覚えのある緑の樫の小枝がありました。
葉裏を確認すると,オッ!またしてもハナガガシの枝葉です。
その枝には小さなドングリが付いています。
林道のすぐ上に直径30㎝程度の樹木が確認できました。
公園に続く道を邪魔な落下枝を除去しながら進むと、ハナガガシの樹下には大小の枝葉が落ちていました。
中には両手で一抱えする程の枝葉もありました。
大径樹の下に落ちている枝葉にはそれぞれ、小さなドングリがついています。
どれも高い場所の梢が台風の風で蹂躙されて落下したものです。
貴重な高所からの便りです。幾つかの枝葉を持ち帰りました。
こんな感じの小枝が落ちていました。
背景は2㎝の方眼で、10㎝毎に太いラインが入っています。
これから下の画像は1目盛1㎝です。
ハナガガシの実はドングリですが、2年成りてす。花が終わった後、一冬越して翌秋に成熟し落果するそうです。
画面上の枝は昨年の実が成長途上ですが、まだ直径5㎜。殻斗基部から花柱まで8㎜程です。
画面下には今年の春に咲いた雌花が成長せずにそのままです。
その右手には早くも冬芽が形成され始めています。
(見え易くするために葉柄を残して葉を除けています」)
それぞれ、拡大しましょう。
一つの花序には3個の雌花・果実ができています。が、ドングリ部分は殆ど殻斗に覆われています。
今年の雌花は、成長せずにストップしています。
冬芽はまだ準備中です。冬になると爪楊枝の様に細長く尖ります。この特徴は種の同定に役立ちます。
大径樹の梢の葉を見ると、若木に比べて押しなべて葉が小さい事に気づきました。
以下の画像は左側が若木で右側が大径樹です。
左の葉3枚が若木で、右の葉3枚が大径木の梢で、うち右端が葉裏です。
葉の色合いも梢の葉はやや黄色がかり、黄色の縁取りも見られます。
若木の葉柄はクサビ形に流れていますが、梢の葉柄は長目です。
葉の先端も若木の方がより尖っています。・・・人間も若い時は尖りたがりますケド。(笑)
このハナガガシは春に葉腋から新芽が伸びますが、葉は先端部に集中的に付きます。
また次の春にはその枝先の葉腋から新たな新芽が伸びます。
従って年を経る毎に幹や幹や枝が段階状に付きます。マツやイイギリの様に・・です。
その段数を数えると年齢が容易に推測できます。
上の画像では左の若木は僅か2年で80㎝近く伸びていますが、右の梢では9年で50㎝の伸長です。
また若木は3~5年間葉を保持していますが、高所の梢は昨年の葉でさえ、かなり脱落しています。
梢の葉は葉巻虫などが巣を作ったり、食害されてています。
これらの事から梢には水が充分行き渡っていない様に感じます。
昨春ハナガガシに出会ってから、なぜ分布域が限定されているか?と疑問に感じていました。
今回のドングリを見て、次の事を推測しました。個人の思いですが。
推定30年未満のハナガガシは、花も咲かないし当然ドングリも成っていない事は分かっていました。
台風の後、樹下にドングリを付けて落ちていたのは、樹径30㎝以上(推定樹齢50年ほど?)の樹だけでした。
ハナガガシは晩熟性か?ある程度以上に樹齢が進まないと繁殖できないのでは?と思いました。
昭和30年~50年台にかけて、国策で「国土緑化運動」が展開され、自然林は皆伐され杉桧松などの針葉樹が盛んに植えられ、自然林は激減しました。時を同じくして燃料は薪炭から化石燃料に変遷しています。
それまでは、15年~30年のスパンで自然林を伐採し、薪炭燃料として都市部で消費されてきました。
仮にハナガガシが晩熟性なら、繁殖できるようになる前に伐採されたので分布が狭くなったのでは?
伐採後に切株が残り根元から株立ちできたとしても、開花時期以前に数百年間も伐り倒され続けたら、いずれは消える運命ですよね。
民有林はこうして常に循環されてきました。
一方、寺社林ではると罰が当たると、伐採はされず長寿の樹木が巨木として数多く残りました。
かくして「鎮守の森」は「珍樹の森」として、現代に引き継がれています。
この性質と人間の行為が災いして、分布域限定の希少種に陥ったのではと思う次第です。
私の論理の展開がスマートでないので、意図が分かり辛いかと思いますが、皆さんいかがでしょうか?